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東京高等裁判所 平成9年(行ケ)269号 判決

長野県更埴市大字雨宮1825番地

原告

エムケー精工株式会社

代表者代表取締役

丸山永樹

訴訟代理人弁護士

柏木薫

松浦康治

同弁理士

竹本松司

湯田浩一

大阪府大東市中垣内七丁目7番1号

被告

船井電機株式会社

代表者代表取締役

船井哲良

訴訟代理人弁理士

渡辺秀治

長谷川洋

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  原告が求める裁判

「特許庁が平成8年審判第16477号事件について平成9年8月25日にした審決を取り湾す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

第2  原告の主張

1  特許庁における手続の経緯

被告は、発明の名称を「製パン器の加熱制御装置」とする特許第1812695号発明(以下「本件発明」という。)の特許権者である。なお、本件発明は、昭和62年2月13日に特許出願され、平成4年4月2日の出願公告を経て、平成5年12月27日に特許権設定の登録がされたものである。

原告は、平成8年9月30日、本件発明の特許を無効にすることについて審判を請求した。特許庁は、これを平成8年審判第16477号事件として審理した結果、平成9年9月19日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、同年10月1日にその謄本を原告に送達した。

2  本件発明の特許請求の範囲(別紙図面A参照)

パン材料を投入して混練及び発酵及び焼成を行う焼成ケースを備えると共に、前記焼成ケースをオーブンに内設させる装置において、前記オーブン内部がイースト菌死滅温度以下の設定温度であるか否かを検出する手段を設け、製パン動作開始前において前記手段が前記設定温度に応答する時製パン動作を開始させない手段を設けると共に、製パン動作開始後において前記検出手段が前記設定温度に応答する時製パン動作を中止させる手段を設けたことを特徴とする製パン器の加熱制御装置。

3  審決の理由の要点

別紙審決書の理由の一部の写しのとおり(審決における甲第6号証の特許公報を以下「引用例1」、審決における甲第7号証の特許公報を以下「引用例2」という。)

4  審決の取消事由

審決は、引用例1及び引用例2記載の技術内容を誤認した結果、本件発明の進歩性を肯定したものであって、違法であるから、取り消されるべきである。

(1)審決は、引用例1には、本件発明の要件である「オーブン内部がイースト菌死滅温度以下の設定温度であるか否かを検出する手段を設け、製パン動作開始前において前記手段が前記設定温度に応答する時製パン動作を開始させない手段を設けると共に、製パン動作開始後において前記検出手段が前記設定温度に応答する時製パン動作を中止させる手段を設け」る構成(以下「本件発明が特徴とする構成」という。)は開示されておらず、示唆もされていない旨判断している。

引用例1に本件発明が特徴とする構成が記載されていないことは認める。しかしながら、引用例1には、審決認定のとおり、全自動製パン機において、一定の工程中、継続的に温度を検出し、これに基づいて継続的に温度制御を行う技術的思想は明確に記載されているところである。

(2)そして、審決は、引用例2にも、本件発明が特徴とする構成は開示されておらず、示唆もされていない旨判断している。しかしながら、

〈1〉 引用例2には、発酵調理機能を備えた調理器において、「発酵調理設定キーがオンされると加熱室内温度を検出」(1頁左下欄5行ないし7行)することが記載されているが、これは、本件発明が特徴とする構成中の「オーブン内部がイースト菌死滅温度以下の設定温度であるか否かを検出する」ことに相当する。

〈2〉 また、引用例2には、「加熱室内温度が一定値以上であれば(中略)発酵調理を禁止する」(1頁左下欄7行ないし9行。別紙図面Bの第5図参照)ことが記載されているが、これは、本件発明が特徴とする構成中の「製パン動作開始前において前記手段が前記設定温度に応答する時製パン動作を開始させない」ことに相当する。

〈3〉 さらに、引用例2には、「加熱室内温度が一定値以上たとえば60℃以上であれば直ちに調理をストップする」(2頁左上欄6行、7行。以下「引用例2の記載〈3〉」という。別紙図面Bの第3図参照)ことが記載されているが、これは、本件発明が特徴とする構成中の「製パン動作開始後において前記検出手段が前記設定温度に応答する時製パン動作を中止させる」ことに相当する。

このように、引用例2には、本件発明が特徴とする構成がすべて記載されているのである。

(3)そうすると、本件発明の特徴は、強いていえば、製パン器のオーブン内部の温度検出及び及びこれに基づく温度制御を、特定の時点ではなく、一定の工程中、継続的に行う点にあるが、これは、前記のとおり引用例1に記載されている技術的思想にほかならない。したがって、本件発明は、引用例1記載の全自動製パン機に、引用例2記載の温度制御方式を適用することによって容易に得られるものにすぎないから、本件発明の進歩性を肯定した審決の判断は誤りである。

なお、被告は、引用例2の記載〈3〉について、引用例2記載の発明においては、発酵開始後は加熱室内温度が上昇する理由がなく、加熱室内温度は発酵に最適の温度に向けて下降するだけであるから、発酵開始後も温度制御を継続しなければならない理由はない旨主張する。

しかしながら、加熱室内温度を発酵に最適の温度に維持するためにはヒーターによる加熱を必要とする場合もありうるから、引用例2記載の発明においても、発酵開始後の継続的な温度制御(加熱室内温度をイースト菌の死滅温度以下に維持する温度制御)の必要があることは当然であって、このことは別紙図面Bの第3図にも明確に図示されているところである(同図について、被告は、「加熱室内60℃以上」にならない限り「発酵調理実行」が繰り返される不合理なフローである旨主張するが、設定した発酵調理時間が経過したときは発酵調理を終了すべきことは当然であるから、被告の上記主張は失当である。現に、本件発明の特許願書添付の図面第7、8図においても、設定した発酵調理時間が経過したとき発酵調理を終了すべきことは省略されている。)。

第3  被告の主張

原告の主張1ないし3は認めるが、4(審決の取消事由)は争う。審決の認定判断は正当であって、これを取り消すべき理由はない。

1  原告は、引用例2の記載〈3〉は本件発明が特徴とする構成中の「製パン動作開始後において前記検出手段が前記設定温度に応答する時製パン動作を中止させる」ことに相当する旨主張するが、誤りである。

すなわち、引用例2記載の発明は発酵機能を備えた調理器の温度制御に関するものであるが、レンジ調理等によって加熱室内温度がイースト菌の死滅温度(60℃)以上になっている場合があるので、発酵開始時点の加熱室内温度が60℃未満である場合にのみ発酵を開始するように温度制御する必要があり、かつ、それで十分である。なぜなら、発酵開始後は加熱室内温度が上昇する理由がなく、加熱室内温度は発酵に最適の温度(30~40℃)に向けて下降するだけであるので、発酵開始後も温度制御を継続しなければならない理由がないからである(これに対して、本件発明においては、混練(すなわち、パン材料の攪拌)によってオーブン内部の温度が上昇するおそれがあるから、製パン動作開始後も、温度制御を継続する必要がある。)。

2  そして、引用例2の記載〈3〉は、「スタートキー8がオンされると発酵調理を開始するが、このとき加熱室内温度を検出し、」(2頁左上欄4行ないし6行)という記載に続くものであるが、この記載における「このとき」が、「発酵調理を開始する」ときであることは明らかであるから、引用例2の記載〈3〉は、発酵開始時点の温度制御を述べているのである。したがって、引用例2に、本件発明が特徴とする構成中の「製パン動作開始後において前記検出手段が前記設定温度に応答する時製パン動作を中止させる」に相当する記載がある旨の原告の主張は、失当である。

この点について、原告は、別紙図面Bの第3図を援用するが、同図に図示されているフローは、「加熱室内60℃以上」にならない限り「調理ストップ」せず、「発酵調理実行」が繰り返されるという不合理なものである。したがって、同図は、発酵開始時点の温度制御の問題点を説明するためのものと理解するほかないから、原告の前記主張の論拠とはなりえない。

理由

第1  原告の主張1(特許庁における手続の経緯)、2(本件発明の特許請求の範囲)及び3(審決の理由の要点)は、被告も認めるところである。

第2  甲第4号証(訂正明細書)によれば、本件発明の概要は次のとおりと認められる(別紙図面A参照)。

1  技術的課題(目的)

パン材料の混練、発酵及び焼成を、時間と温度により制御して連続的に行う製パン器は公知である(2頁4行ないし6行)。

しかしながら、タイマ等の予約操作によって最低温度を保持する場合、オーブン内部温度が過大となってイースト菌が死滅する可能性があるとともに、高温状態のオーブンにイースト菌を入れて死滅させる可能性もあり、安全性及び操作性を向上できないという問題点があった(2頁8行ないし13行)。

本件発明の目的は、従来技術の上記問題点を解決した加熱制御装置を創案することである。

2  構成

本件発明は、上記の技術的課題を解決するために、その特許請求の範囲記載の構成を採用したものである(1頁5行ない15行)。

3  作用効果

本件発明によれば、製パン予約操作後及び製パン後の温度監視を適正に行って、イースト菌に必要な温度管理機能の向上を図ることができる(16頁8行ないし13行)。

第3  そこで、原告主張の審決取消事由の当否について検討する。

原告は、引用例2の記載〈3〉は本件発明が特徴とする構成中の「製パン動作開始後において前記検出手段が前記設定温度に応答する時製パン動作を中止させる」ことに相当する旨主張する(なお、引用例2に、本件発明が特徴とする構成中の「オーブン内部がイースト菌死滅温度以下の設定温度であるか否かを検出する」こと、「製パン動作開始前において前記手段が前記設定温度に応答する時製パン動作を開始させない」ことが記載されている点は、被告も争わないところである。)。

検討すると、甲第7号証によれば、引用例2には、従来技術の説明として、「スタートキー8がオンされると発酵調理を開始するが、このとき加熱室内温度を検出し、『加熱室内温度が一定値以上たとえば60℃以上であれば直ちに調理をストップする』とともに、(中略)“E”の文字を表示器4で表示する。したがって、使用者は、“E”の表示を見て加熱室内温度がまだ発酵調理に適さない高温度状態であることを察知し、ドア2を開放して食品を加熱室内から取出す。なお第3図のフローチャートはこの制御を示したものである。」(2頁左上欄4行ないし13行)と記載されていることが認められる(上記の『~』内が引用例2の記載〈3〉である。)。

このように、引用例2の記載〈3〉の直前の部分のみならず、引用例2の記載〈3〉に続く部分も、発酵開始時点の温度制御を述べていることが明らかであるから、引用例2の記載〈3〉のみを発酵開始後の温度制御と捉えるのは不合理といわざるをえない。

このことは、引用例2の下記の記載からも疑問の余地がないということができる。すなわち、甲第7号証によれば、引用例2には下記の記載が存在することが認められる。

a  「[背景技術の問題点] しかしながら、スタートキー8がオンされた時点で加熱室内温度を検出するということは、このとき食品は必らず加熱室内に納められていることになり、よって加熱室内温度が60℃以上となっていれば使用者は一旦納めた食品を改めて取り出すことになり、使用者にとって非常に面倒であった。」(2頁左上欄15行ないし右上欄1行)

b  「[発明の目的]この発明(中略)の目的とするところは、発酵調理の実行が可能であるか不可能であるかをタイミングよくしかも的確に報知することができ(中略)る調理器の制御方式を提供することにある。」(2頁右上欄3行ないし8行)

c  「特許請求の範囲 発酵調理機能を備えた調理器において、発酵調理設定キーがオンされると加熱室内温度を検出し、加熱室内温度が一定値以上であればその加熱室内温度を報知するとともに、発酵調理を禁止することを特徴とする調理器の制御方式。」(1頁左下欄4行ないし9行)

d  「発酵調理設定キー5aがオンされた時点で加熱室内温度を検出し、加熱室内温度が発酵調理に適さない温度であればその旨を報知するとともに、発酵調理の実行を禁止するようにしたので、使用者は食品を加熱室内に納める前にタイミングよく発酵調理の実行可能および実行不可能を判別することができ、実行不可能な場合には食品の出し入れが不要となり、非常に便利である。」(3頁左上欄1行ないし9行)

これらの記載によれば、引用例2記載の発明が、発酵開始時点の温度制御に関する従来技術の改良のみを企図するものであって、発酵開始後の温度制御については何らの問題意識も持っていないことは明らかである。

この点について、原告は、引用例2記載の発明においても、発酵開始後の継続的な温度制御の必要があることは当然であって、このことは別紙図面Bの第3図に図示されている旨主張する。原告のこの主張は、同図のフローにおいて、「加熱室内 60℃以上?」の前に「スタートキー オン?」、「発酵調理実行」が記載されていることをいうものであるが、引用例2の発明の詳細な説明には、前記のとおり、同図は発酵開始時点の温度制御を図示したものであることが記載されているのであるから、同図が発酵開始後の温度制御を図示したものとする理解は、引用例2の記載を離れた不正確なものといわざるをえない(まして、同図を発酵開始後の温度制御を図示したものとすると、加熱室内温度が60℃未満に正常に制御されている限り、いつまでも発酵調理が繰り返される不合理を生ずるから、当業者が同図を発酵調理後の温度制御を図示したものと理解することはありえないと考えるべきである。)。

そして、甲第7号証を検討しても、引用例2には、はかに発酵開始後の温度制御について言及した記載を認めることはできない。

したがって、引用例2には、本件発明が特徴とする構成中の「製パン動作開始後において前記検出手段が前記設定温度に応答する時製パン動作を中止させる」ことが記載されているとはいえず、また、そのような技術が本件発明の特許出願当時に周知であったことを認めるに足りる証拠もないから、本件発明は引用例1及び引用例2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないとした審決の認定判断は、正当であって、審決には原告主張のような違法はない。

第4  よって、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は、失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日 平成11年4月6日)

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 春日民雄 裁判官 宍戸充)

別紙図面A

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

〈省略〉

別紙図面B

〈省略〉

請求人は、本件特許発明は、その出願前国内において頒布された甲第6乃至7号証刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、と主張している。そこで検討すると、

〈1〉本件特許発明の要旨は、平成5年2月19日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。

「パン材料を投入して混練及び発酵及び焼成を行う焼成ケースを備えると共に、前記焼成ケースをオーブンに内設させる装置において、前記オープン内部がイースト菌死滅温度以下の設定温度であるか否かを検出する手段を設け、製パン動作開始前において前記手段が前記設定温度に応答する時製パン動作を開始させない手段を設けると共に、製パン動作開始後において前記検出手段が前記設定温度に応答する時製パン動作を中止させる手段を設けたことを特徴とする製パン器の加熱制御装置。」

〈2〉これに対して、請求人が、甲第6号証として提出した特開昭62-5314号公報には、「焼成装置と、この焼成装置の焼成室内に着脱自在に装着しうるパン焼き型と、このパン焼き型内底部に練り羽根を備えた混練装置と、パン焼き型内に水を供給する給水装置と、焼成室上方に設けた蒸気抜き装置と、パン焼き型の温度検知手段と焼き上げ時刻の入力装置とを備え温度検知手段と入力装置の入力情報により前記各装置の制御条件を可変させる制御装置とから構成した全自動製パン器」(特許請求の範囲)、「夏期で周囲温度や材料及び水の温度が高かった場合、練りはじめのパン生地温度TA1は高く、逆に冬期の場合は低い生地温度TB1となる。この温度を検知する場合、パン焼き型(32)の側壁に圧接するように設けた温度検知部(39)で練り工程中の任意の時点での温度を検知し、この入力情報と焼き上がり時刻の入力情報を基に制御装置(49)が以後の練り時間(LA1、LB1)や発酵温度(TA2、TB2)、発酵時間(LA2、B2)等のLA1~LA5、TA2~TA5、LB1~LB5、TB2~TB5の条件を設定し、その条件となるよう各装置(ヒータ、モータ等)を制御するようになっている。」(公報3頁右上欄17~左下欄8行)と記載されている。

また、甲第7号証として提出している特開昭59-195033号公報には、「発酵調理機能を備えた調理器において、発酵調理設定キーがオンされると加熱室内温度を検出し、加熱室内温度が一定以上であればその加熱室内温度を報知すると共に、発酵調理を禁止することを特徴とする調理器の制御方式。」(特許請求の範囲)、「この種の調理器たとえば電子レンジとしては第1図に示すものがある。・・・・・、調理種類設定キー5を操作することにより、レンジ調理、オーブン調理、グリル調理、及び発酵調理などが適宜に実行できるようになっている。」(公報1頁左欄15~右欄8行)、「発酵調理を実行するべく使用者が発酵調理設定キー5aをオンすると、・・・、表示器で“発酵”の文字表示及び発酵調理に対応するコード表示を行う。同時に、マイクロコンピューター14は、サーミスタ10を用いて加熱室内温度を検出し、加熱室内温度が発酵調理に適さない“60℃”の温度表示(報知)を点滅して行うと共に、以後の調理条件設定キー6の操作による調理時間設定指令及びスタートキー8のオンによる調理開始指令を受け付けない。つまり、発酵調理が不可能な旨を報知すると共に、発酵調理の実行を禁止する。」(公報2頁左下欄19~右下欄14行)と記載されている。

〈3〉そこで、本件特許発明と甲第6乃至7号証に記載されたものとを対比すると、本件特許発明は、「前記従来技術は、タイマなどの予約操作により最低温度を保持する場合、オーブン内部温度が過大となってイースト菌が死滅する可能性があると共に、高温状態のオーブンにイースト菌を入れて死滅させる可能性があり、安全性及び取り扱い操作性を容易に向上させ得ないなどの問題があった。」(甲第4号証として提出されている明細書2頁8~13行)という問題点を解決するために、「オーブン内部がイースト菌死滅温度以下の設定温度であるか否かを検出する手段を設け、製パン動作開始前において前記手段が前記設定温度に応答する時製パン動作を開始させない手段を設けると共に、製パン動作開始後において前記検出手段が前記設定温度に応答する時製パン動作を中止させる手段を設けた」ことを必須の構成要件としているが、前記甲第6乃至7号証にはこの必須の構成要件については記載されていないし、また示唆もされていない。

即ち、前記甲第6号証には、パン焼き型(32)の側壁に圧接するように設けた温度検知部(39)で練り工程中の任意の時点での温度を検知し、この入力情報と焼き上がり時刻の入力情報を基に制御装置(49)が以後の練り時間や発酵温度、発酵時間等の条件を設定し、その条件となるよう各装置を制御することについては開示されているが、前記本件特許発明の必須の構成要件は開示されていないばかりでなく、示唆もされていない。

また、甲第7号証には、発酵調理機能を備えた電子レンジにおいて、発酵調理設定キーがオンされると加熱室内温度を検出し、加熱室内温度が一定以上であればその加熱室内温度を報知すると共に、発酵調理を禁止するようにした構成は記載されているが、前記本件特許発明の必須の構成要件、特に、「製パン動作開始前において前記手段が前記設定温度に応答する時製パン動作を開始させない手段を設けると共に、製パン動作開始後において前記検出手段が前記設定温度に応答する時製パン動作を中止させる手段を設けた」構成については開示されていないし、また、示唆もされていないものと認める。

そして、本件特許発明は前記必須の構成要件を具備することにより、明細書に記載された甲第6乃至7号証の記載からは予期しえない効果を奏するものと認められる。

従って、本件特許発明は、前記甲第6乃至7号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

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